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神戸家庭裁判所 昭和36年(家)1302号 審判

申立人 ○○児童相談所長 X

(国籍 韓国 住所 神戸市)

事件本人 C 他1名

(国籍並びに住所 右に同じ)

両名保護者親権者父 A

主文

申立人が事件本人等を養護施設に収容することを承認する。

理由

申立人は主文同旨の審判を求め、申立理由として、

「事件本人等の親権者父Aは、数年前に妻が家出し行方不明となり親権行使不能となつて以後は単独で、事件本人等および長男D、次男Eと同居しその監護教育をして来たが、現在肺結核のため就労不能でa民生安定所から生活保護費の支給を受けて生活している。Aは、事件本人等を棍棒等で殴打して傷害を与え、刃物を突きつけ、厳冬に屋外に放り出し、事件本人等の登校を拒否すること多く欠席日数が出席日数を上廻る程であり、自らは大酒を好むため、事件本人等は、つねに欠食し、栄養不良のため行倒れとなつて警察派出所、民生安定所に保護を求めてくること暫々であり、事件本人Cはついに肺結核に罹病するに至り、事件本人Fは父から傷害を受けて以後申立人が一時保護所で一時保護中である。よつて、保護者Aは事件本人等を虐待し、かつ、著しくその監護を怠つているから、児童福祉法第二八条第一項第一号の措置として事件本人等を養護施設に入所させるべく、その承認を求める。」と述べ

証拠として、保護記録抄を提出した。

保護者Aは、「事件本人等を養護施設に入所させることは反対である。近日中に韓国に帰国したいので、帰国後のため、朝鮮語を事件本人等に習わせたいし、今後絶対に事件本人等を虐待したり監護を怠つたりしない旨誓約する。」と述べ、

証拠として、証人G、同H、同I(各証人とも民生安定所員で本件事件の担当者)の尋問を求めた。

当裁判所は調査官に本件の調査を命じ、かつ、当事者双方に調査報告書を提示し、反証を挙げる機会を与え、保護者申請の各証人および保護者を尋問した。

申立人提出の保護記録抄、証人G、同H、同Iおよび保護者の各供述の結果、当裁判所調査官Bの調査報告書(附属資料を含む)を綜合すると、つぎの事実が認められる。

Aの妻Jは昭和三十一年七月頃名古屋在住当時行方不明となり、同年八月Aが事件本人等および長男D(昭和○年○月○日生)次男E(昭和○年○月○日生)とともに神戸市に居住し、その監護教育に当つて来た。Aは当時から肺結核のため軽作業しかできずa民生安定所から生活扶助、子の教育扶助(現在月額計一四、六八五円)の支給を受けて生計を営んでいるが、怠情で就労意欲なく、大酒を飲み異常な潔癖性爆発性性格で、行方不明の妻への憎悪の執念が甚しく、生活扶助等保護費も受給後二、三日でその大半を酒屋などの借金の支払に費消している。そのため、(イ)事件本人等は常に欠食し、学校や路上で倒れて警察、民生安定所から児童相談所に引渡され一時保護されたことがあり、(ロ)事件本人Cは肺結核、同Fは腎臓炎でともに入院加療を要する程の身体でありながら、Aから炊事、掃除を強制され、(ハ)Aは酒乱で、事件本人等の行動が少しでも意の如くならないと殴る、蹴るの暴行に及ぶこと日常であり、事件本人Cに刃物を突きつけたり、事件本人等を厳冬の夜に戸外へ放り出し、昭和三十七年一月二十日には事件本人Cを裸にして薪で殴り頭部等に傷害を与え、(ニ)民生安定所から事件本人等に対する衣料品の支給を受けても、事件本人等に着せずに入質または売却し、その代金で飲酒してしまい、(ホ)事件本人C(b中学一年)同F(c小学三年)が登校することを理由なく拒否し、その欠席日数は出席日数を越える程であり、(ヘ)事件本人等は極度に父Aを畏怖し、施設に入所することを希望している。

申立人は、事件本人Cについては、(1)昭和三十五年八月十六日から同年同月十七日まで、(2)昭和三十六年二月三日から同年同月十一日まで、(3)同年同月十六日から同年同月十九日まで、(3)同年五月二十四日、(4)同年六月十三日から同年九月十六日まで各一時保護し、同Cについては、(1)昭和三十五年八月十六日から同年同月十七日まで、(2)昭和三十六年二月三日から同年同月十一日まで、(3)同年二月十六日から同年同月十九日まで、(4)同年八月三十日から同年九月十六日まで、(5)昭和三十七年一月二十七日から現在まで各一時保護し、Aは昭和三十一年頃から現在までに警察署長、民生安定所長、申立人等に、事件本人等を虐待しない旨の誓約書を入れること再三に及びながら何ら反省を示さず、かえつて益々その度を加え、当裁判所に本件が係属して後も当裁判所調査官Bの指導の下に約五ヵ月に亘り諸関係機関協力してAと事件本人等の補導に当つて来たが、ついにその期待すべき成果が得られなかつた。Aは現在帰国申請を取消している。

右事実によると、保護者Aは事件本人等を虐待し、かつ著しくその監護を怠つているものというほかないから、申立人が児童福祉法第二八条第一項第一号により、事件本人等を養護施設に入所させることは正当である。よつて、当裁判所は申立人の右措置を承認することとし、主文のとおり審判する。

(家事裁判官 高木積夫)

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